研究概要 |
疾走能力は,形態的要因の発達速度が減少する思春期後期に停滞することが知られており,この年代の疾走能力を改善する体育授業を展開するには,疾走能力に関連する体力要因を向上させるトレーニングを導入する必要がある.本研究では,上方への両脚同時または前方への片脚交互ジャンプを複合反復するプライオメトリックトレーニング(以下,プライオメトリックス)で疾走能力が改善したという報告を参考に,39名の男子生徒に両脚同時(19名)または片脚交互(20名)のみのプライオメトリックスを体育授業で実施させ,50m疾走速度,垂直跳(CMJ),立幅跳(SLJ)および立五段跳(SFJ)の変化を明らかにする研究を立案した.そして,授業に参加する生徒が測定やトレーニングを実践し,測定項目の相互関係から疾走能力に関係するジャンプカの構造を考え,トレーニング効果がどのように疾走能力へ転移されるのか検討することで,体力を高めるトレーニング手段や導入手順を理解できるよう配慮した.本研究の結果,CMJがSLJに,SLJがSFJに,SFJが疾走能力に影響する階層構造が示された.また,トレーニング前後で,CMJは両群とも変化せず,SLJは両群とも増加し,SFJは片脚交互群のみ増加した.50m疾走速度は両群とも増加したが,10m区間疾走速度は20-30mから40-50m区間まで片脚交互群において増加した.これらのことから,疾走能力に関係する体力要因は,単純な動作で発揮される力が,複雑な動作で発揮される力へ影響していることや,プライオメトリックスにより前方への片脚交互ジャンプカを向上させると最大疾走局面の疾走能力が改善されること,が考えられた.本研究の授業評価は良好であり,自らが実践した結果を論理的に思考させる実験型体育授業を展開することは,受講する生徒が体力向上を図る方策を理解する上で有益な方法であったと思われる.
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