研究概要 |
動的運動を長時間行うと,運動後に血圧が運動前の値より1時間以上にわたって低下する現象(PEH)が認められる.短期的な血圧調節には動脈圧反射が関与するが,PEH時におけるその機能特性は必ずしも明らかにされていない.本研究はPEHの生理的メカニズムを解明することを課題としており,最終年度である3年目はPEH時における頸動脈圧反射機能特性について,末梢循環応答を中心に検討した.被験者は仰臥位で30分の安静の後,立位で自転車運動を60分行い,再び仰臥位で60分の安静を保った.運動前と運動後に可変圧ネックチャンバーによって頸動脈圧受容器を刺激(+40,0,-40,-60torr)しながら,運動肢である膝下動脈(LBF),非運動肢である上腕動脈(ABF)の血流量を測定した.同時に,心拍数,平均血圧および心拍出量を測定した.被験者は2年目と同様にPEHの出現の有無によって,PEHの出現があった群をRE群,PEHがみられない群をnon-RE群として解析を行った.圧受容器刺激時におけるLBFおよびABFの変化量は,RE群では運動前後で変わらなかったが,non-RE群では-40torrで刺激した時,LBFとABFともに運動後に有意な増加が認められた.このことから,PEHがみられない被験者(non-RE群)は,運動後に頸動脈圧受容器を介した交感神経活動減弱に対して局所の血管応答が増大する傾向が示唆された.2年目の結果と併せて考察すると,PEH時,すなわちRE群の運動後においては,頸動脈圧受容器を介した中心および末梢循環応答は運動前と違いはみられず,PEH時に頸動脈圧反射機能特性は基本的には変化しないことが示唆された.一方で,PEHがみられない被験者(non-RE群)は,運動後に頸動脈圧受容器を介した中心および末梢循環応答が運動前と比較して増強する可能性があり,頸動脈圧反射機能特性は運動後に右上方へ移動する可能性が示唆された.
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