運動トレーニングは肥満、メタボリックシンドロームの改善に広く用いられている。脂肪組織における運動トレーニングの効果については脂肪分解反応などから検討がなされているが、運動トレーニングによってどのような分子が変化するのかを網羅的に解析した検討は行われていない。そこで、5週齢のラットに9週間のトレッドミル走を実施し、脂肪組織で運動トレーニングによって発現が変化する遺伝子をDNAアレイで網羅的に検索することにより、新しい運動効果を解明することを目的に検討を行った。その結果、コラーゲンやインテグリンなどの細胞外マトリックス(ECM)関連分子の遺伝子発現が運動レーニングによって変化するという結果が得られた。最近、肥満による脂肪組織のリモデリングにコラーゲンが関与することが報告されたことから、運動トレーニングによる脂肪組織の変化にもECM関連分子の発現変化が関与している可能性が考えられた。さらに、脂肪組織中に存在する脂肪細胞に分化する脂肪組織由来幹細胞を含むstromal-vascular fraction(SVF)細胞では、脂肪細胞の分化を制御する転写因子であるペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γや脂肪合成に関与する脂肪酸合成酵素などの遺伝子発現が減少し、逆に、脂肪細胞の分化を抑制すると報告されている転写因子hypoxia-inducible factor-1αやpreadipocyte factor-1の遺伝子発現が増加することがわかった。実際、SVF細胞の脂肪細胞への分化は運動トレーニングによって抑制された。以上のことから、脂肪組織でのECM関連分子の発現変化やSVF細胞における脂肪細胞分化関連遺伝子の発現変化は、運動トレーニングによる脂肪組織の機能変化などに関与する可能性が考えられた。
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