【目的】 先進諸国におけるメタボリックシンドロームの拡大は、適切な治療法や予防法の確立を必要としている。メタボリックシンドロームの元凶である肥満は、全身に脂肪組織が過剰に蓄積した状態であり、脂肪細胞の中性脂肪合成能の増加や、脂肪分解能の低下によりもたらさせる。運動は、様々な細胞に生理生化学的な変化を惹起し、とりわけ脂肪細胞においては中性脂肪の合成能の低下や、脂肪分解反応の亢進を導くことから、肥満の予防や治療のツールとなる。本研究では、肥満により肥大した脂肪細胞の細胞応答性に焦点を当て、肥満した脂肪細胞の細胞情報伝達機構の運動による増幅機序の解明を目的とする。 【平成20年度の結果】 本年度は、運動実験との比較に必要な基礎データの検討を目的とし、薬理学的手法を用いて検討を行った。手始めに、遺伝的肥満ラットより脂肪細胞を単離し、様々なアゴニストの添加による細胞応答性について検討した。脂肪分解反応の亢進経路を調節するβ-アドレナリン受容体のアゴニスト刺激は、非添加群と比べて脂肪分解反応の有意な亢進を導くが、非肥満脂肪細胞にみられる同様の反応と比べて肥満脂肪細胞の増加率は低いものであった。また、脂肪分解反応を抑制するα-アドレナリン受容体やニコチン酸受容体のアゴニスト添加は、脂肪分解反応の有意な抑制を導き、抑制率は非肥満脂肪細胞に比べて肥満脂肪細胞で顕著であった。さらに、α-アドレナリン受容体のアンタゴニストの添加は、非肥満脂肪細胞や肥満脂肪細胞における脂肪分解反応の有意な亢進を導くが、前者と比べて後者は著しく増加著した。この結果は、肥満脂肪細胞における細胞応答の増幅機構は非肥満のそれとは異なり、脂肪分解反応抑制経路が有意な代謝応答が誘導されていることを示している。 加えて、運動療法と食事療法の併用が肥満の抑制に効果的であるかを検討するために、脂肪合成を抑制するカテキンタイプのポリフェノールが脂肪細胞の脂肪分解反応に及ぼす影響について検討したところ、アドレナリン受容体を介する経路とは独立した経路を賦活することにより、脂肪分解反応の有意な亢進を導くことが明らかとなった。これらを受け、平成21年度は運動による修飾作用を加味し、さらなる検討を計画している。
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