研究概要 |
老化に伴う骨格筋の萎縮は、様々な要因が関わり合って進行する現象である。近年の研究では、その要因の一つとして、老化に伴い変性・機能不全に陥ったタンパク質や細胞器官の増加が、萎縮に関わる細胞死や筋機能の弱体化を招くことが推察されている。本研究課題では、骨格筋内で変性したタンパク質・細胞器官を除去する働きを持つオートファジーに関して検討を加え、老化におけるオートファジーの意義とその誘導に関わるシグナルの解明を目的に検討を進めた。2008年度は基礎的な検討として、骨格筋内のオートファジー誘導とそのシグナル経路の同定を行った。このため、ラットの絶食モデルを用いてオートファジーの誘導を検討した。絶食期間は1日、2日、3日間とし、ヒラメ筋、足底筋を摘出した。オートファジー検出は、マーカータンパク質であるLC3-llの発現量を分析することによって行った。その結果、1)足底筋はヒラメ筋に比べて絶食後の筋重量の低下が大きい(3日後のヒラメ筋 : -10%、足底筋 : -23%)、2)オートファジーの誘導をみると、コントロール群と比較してヒラメ筋ではLC3-llの発現が絶食1, 2日後まで発現の変化はほとんどみられないが、3日目で10倍の増加が認められた。一方、足底筋では、絶食1日後(5倍)、2日後(49倍)、3日後(108倍)で顕著な増加が認められ、足底筋ではヒラメ筋と比べて絶食後のオートファジー応答が著しいことが明らかになった。次にオートファジーの誘導に関わるとされる因子を検討したところ、特に足底筋では、絶食1〜3日後にかけてリン酸化mTORの著しい減少(3日後 : コントロールの-34%まで低下)が観察された。これらの結果から、絶食時におけるオートファジ-の誘導は、特に速筋で起こり易く、その誘導にはmTORのような筋収縮に深く関わるタンパク質の不活性化が関連している可能性が推察された。
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