研究概要 |
老化に伴い細胞内で増加する変性タンパク質や機能不全に陥った細胞小器官(ミトコンドリア,小胞体,核など)が、老齢性筋萎縮に関わる細胞死や筋機能の弱体化を招くことが近年の研究から推察されている。この変性タンパク質の増加と筋萎縮の関連性を明らかにすべく,本研究課題では骨格筋内で変性したタンパク質・細胞器官を除去する働きを持つ"オートファジー"に関して検討を加え、老化におけるオートファジーの意義とその誘導に関わるシグナルの解明を目的とした。実験には26ヵ月齢の老齢ラットを用いて,オートファジー誘導に関連するシグナルの検討を行なった。その結果,筋萎縮が進行した老齢ラットでは変性タンパク質の蓄積に伴い惹起される小胞体ストレスシグナルの活性化が確認された(成熟ラット(6ヶ月齢)と比較してCaspase-12が3.8±0.6倍の増加)。しかしながら,オートファジーのマーカーであるLC3-IIは変化を示さなかった。このことは,老齢ラットでは変性タンパク質が増加しているものの,それを除去する機構であるオートファジーが十分に機能していない可能性を示唆するものであった。次に,運動トレーニングは老齢性筋萎縮を軽減することが数多く報告されているが,この働きがオートファジーの誘導と関連性があるかどうかを明らかにするために,成熟ラットへの運動トレーニング(8週間)後の下肢足底筋におけるオートファジーシグナルを検討した。その結果,LC3-IIの顕著な発現増加は確認されず,オートファジーを制御するFOXO3aやAktの発現に顕著な変化は認められなかった。今後の研究では,老齢性筋萎縮におけるオートファジー活性化の制御方法を確立し,変性タンパク質の除去を介した筋萎縮抑制方法を見つけていくことが重要である。
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