研究概要 |
運動がもたらす代謝亢進効果は,健康づくりを目的とした運動療法の効果を考える上で重要な知見である.運動による代謝亢進は,活動筋の代謝増加が大部分を占めるものと考えられているが,一方,我々は,低強度から高強度の自転車による有酸素性運動によって非活動筋代謝が亢進することを報告している.しかしながら,運動療法の場において,最も多く実践されているウォーキングが非活動筋代謝を亢進させるか否かについては明らかでない,そこで,運動に直接関与しない非活動筋の代謝がウォーキングによって亢進するか否かについて検討することを目的とした.健常成人男性7名を対象とし,30分間のトレッドミルウォーキング(速度6km/h)を実施した.非活動筋は右腕前腕屈筋群とし,ウォーキング中は右腕前腕部をアームレスト上に置き,筋活動が生じないようにした.非活動筋代謝は近赤外分光法を用いて一時的動脈血流遮断法によって評価した.非活動筋代謝はウォーキング開始20分と30分目に有意に(P<0.05)増加した(それぞれ安静の1.2倍と1.3倍の増加),本研究で観察されたウォーキングによる非活動筋代謝の増加値(1.2~1.3倍)は,中等度(50%VO_2max)の自転車運動の先行研究における非活動筋代謝の増加値(2.0倍)よりも低値であった.本研究のウォーキング時の%VO_2maxは57%であったことから,運動強度が同じならば,ウォーキングによる非活動筋代謝の増加量は自転車運動と比較して小さくなることが示唆された.本研究結果は,ウォーキングによる代謝亢進効果が非活動部位の筋に対しても波及することを示している.このことから,本研究成果は,ウォーキングによる運動療法の効果について新しい視点を提供することができるものと考えられた.
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