本研究は、診察における患者教育のためのコミュニケーション・スキルに焦点を当て、慢性疾患の再診外来診察におけるコミュニケーションの分析を含む実証研究を行い、医学教育におけるコミュニケーション教育の改善に向けた提言のための基礎的データを得ることを目的としている。本年度は、前年度に行った、医療コミュニケーションに関する実証研究、理論、モデル等の先行文献のレビューに基づき、既存の診療場面の会話のデータを用いながら、コーディングのための新たな枠組みを検討した。また、コミュニケーション分析のベースとして用いているRoter Interaction Analysis System(RIAS)のコーダー養成ワークショップの開催を通じて、関連研究者との議論を行った。 また、既存データの分析から、慢性疾患を持つ患者の診療場面において、患者のヘルスリテラシー(健康医療に関する情報を収集・理解・活用する能力)によって、診察での医師及び患者それぞれのコミュニケーション行動が異なっており、情報のやり取りのプロセスが異なることが明らかになった。セルフケア行動についてみても、ヘルスリテラシーの高い患者は、医療者から指示された運動療法や食事療法を実行しているとする者が多く、処方されている薬の理解や疾病管理の自己効力感も高いなど、セルフケアの状況がよいことが示された。患者のヘルスリテラシーを把握し、それに応じた患者教育、情報提供を行うとともに、ヘルスリテラシーの向上を目指した働きかけを行っていくことが重要であることが示唆された。
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