疲労は、発熱、痛みとともに、身体のホメオスタシス(恒常性)の乱れを知らせる重要なアラーム信号であると考えられているが、達成感や意欲といったポジティブな感情によりその程度は軽減する。しかしながら、疲労とその他の情動の行動学的あるいは脳科学的研究は、互いに接点が無いまま進められており、両者の関連性は未だ明らかでない。そこで、本研究では、疲労と内発的意欲の関連性を、内発的意欲の抗疲労効果という観点から、非侵襲的脳機能計測により検証することを目的とした。疲労誘発作業負荷課題として作業記憶課題である2-back taskを用いた。MRI内における45分間の疲労誘発作業負荷中の内発的報酬あり[Intrinsic Reward(+) : IR(+)]または内発的報酬なし[IR(-)]呈示に同期した脳神経活動応答を機能的磁気共鳴画像法により計測した。IR(+)とIR(-)の賦活パターンおよび賦活度を比較検討した。IR(+)により腹側線条体と前帯状回の賦活がみられたが、IR(-)ではこれらの領域の賦活がみられなかった。これらの領域は報酬系関連領域として知られており、IR(+)は金銭的報酬、社会的報酬、達成報酬の知覚と同様の神経基盤であることが示唆された。IR(+)による腹側線条体の賦活度と意欲スコア間で正の相関がみられた。つまり、IR(+)により意欲が喚起されるほど線条体が活性することがわかった。また、IR(-)による前帯状回の賦活度と疲労軽減スコア間もまた正の相関がみられた。よって、IR(+)により疲労が軽減されるほど前帯状回が活性することが明らかとなった。以上より、腹側線条体と前帯状回が内発的意欲・疲労軽減の神経基盤である可能性が示唆された。
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