研究概要 |
運動による睡眠改善効果は、改善の余地がある不眠者で検討すべきとの指摘がなされている。そこで本研究では、睡眠質問紙とアクチグラフにより不眠傾向にある人を抽出し、睡眠を改善するための運動の実施タイミングについて検討することとした。平成22年度は前年度に引き続き、質問紙をもとに睡眠が良好でない大学生9名で実験を行った。平成21年度の実験結果と合わせると、事前のアクチグラフ評価により睡眠効率(総睡眠時間/全就床時間)が90%未満であった被験者7名が睡眠不良群、90%以上であった被験者12名が睡眠良好群に分類された。すべての被験者は(1)非運動日、(2)就床3時間前運動日、(3)就床5時間前運動日の3日間の実験に参加した。運動は60%HRR強度のジョギングを40分間実施した。アクチグラフによる睡眠評価では、睡眠不良群において両運動日とも非運動日に比べて睡眠が改善する傾向がみられた。これらの睡眠改善傾向は似ていたため、両運動日の値を平均して運動日とし、非運動日の値と比較した。その結果、運動日において睡眠効率の有意な改善が認められたほか(81.9%→88.5%,p<.05)、入眠潜時が短縮する傾向が認められた(55分→31分,p=.07)。一方、睡眠良好群では、運動による睡眠改善効果がほとんど認められなかった。就寝前の眠気は、睡眠不良群の非運動日に低かったが、運動日には睡眠良好群に近い値にまで増加した(53→66,p<.05)。本研究ではさらに、体温や心拍数、自律神経活動の生理的関与について検討した。その結果、多くの生理指標は運動産生の一時的興奮が運動終了後すぐに消失する傾向を示したが、足部皮膚温は就床前にかけて高い値で推移していた。このことから、本実験で不良睡眠者に認められた睡眠改善効果は、末梢部位での熱放散量増加が眠気を増加し、睡眠を促進するメカニズムで説明することができると考えられた。
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