研究課題
本研究では、典型的なリズム性運動であるペダリング運動(pedaling exercise:PE)が、前頭前野の活性化によって脳幹にあるセロトニン神経を活性化させ、その上行性投射によって脳波にα波を出現させ、下行性投射によって脊髄後角にある痛覚伝導ニューロンを抑制する、との仮説をヒトを対象に検討し、以下の結果を得た。PEは被験者毎にあらかじめ決められた負荷(93±5.4W)で15分間行われた。その結果、(1)PE前後に定量した血液中のセロトニンレベルはPE後に増加した。(2)PE前後およびPE中に記録した脳波を周波数解析したところ、α波帯域のパワーが、PE後およびPE中に増加した。(3)PE前後に心理テスト(POMS)を実施した結果、PE後には不安が少なく活気のある心理状態となっていた。(4)前頭前野の24個所から、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を用いて脳血流を測定した結果、前頭前野の腹側部において背側部よりも有意な脳血流の増加を認めた。(5)経皮的に指神経を電気刺激して腕橈骨筋から、侵害受容反射(NWR)を誘発し、その大きさのPE中の経時的変化を調べたところ、NWRはペダリング開始後5分の時点から減少を開始して約10分で安定し、その減少はべダリング終了後も継続した。(6)#5の電気刺激による痛みをVAS(visual analog scale)によって主観的に評価したところ、NWRの変化と同様のVASの減少傾向が得られた。以上の結果から、本研究のPEにより、前頭前野が活性化して不安が少なく活気のある心理状態が得られ、同時に前頭前野の活性化はセロトニン神経を活性化させ、その上行性投射によって脳波のα波パワーの増加をもたらしたと考えられた。また、セロトニン神経の活性化はその下行性投射によって脊髄の痛覚伝導を抑制し、NWRを減少させたものと考えられた。
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Behavioural Brain Research (印刷中,未定)