平成21年度は、20年度の結果を元に、さらに香りと記憶に関して詳細な検討を行った。 平成20年度は実際に、日常生活での認知行動において重要であると思われる図形・記号・単語等を用いて記憶試験を行い、香りによる記憶能力の相違を検討したが、21年度はさらに、記憶と脳波(EEG、事象関連電位(ERP))との関連について特に重点的に検討を行った。予備試験・成分より10種類の植物由来の精油を選択し、20-25歳までの男性72名を2群に分け、それぞれ6条件(精油条件5種類とブランク条件)をランダムに提示して検討を行った。試験は1名ずつ実施した。超音波式ディフューザーで香りを連続提示し、被験者は脳波計・心拍計を装着し、ディスプレイに提示される記号・人の顔を記憶した。直後に5種類のノンターゲットを加えた10種類の記号・人の顔をランダムに提示し、ターゲットが提示されたときのみ被験者が手元のボタンを押すという作業を行い、ERPとボタン押し作業の正確さを同時に測定した。EEG、心拍変動は連続して測定した。香りにより記憶が促進される可能性があることは20年度に示唆されたが、21年度は、記憶・再生を行っている間は、香りによりEEGのγ波の割合がブランク条件よりも有意に低くなり、α波の割合が有意に高くなる傾向があることが示唆された。特にラベンダー、フランキンセンスなどで顕著に見られた。この差は、安静にしている時間や記憶作業以外の時間での比較では見られず、記憶作業の正答率とも関連する可能性がある。さらに解析作業を進め、香りと記憶のデータベースを作成する予定である。
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