平成22年度は20年、21年度の臨床試験の結果を元にして、さらに香りと記憶に関して詳細かつ具体的な利用について検討を行った。 (1)香りの記憶保持機能に関する臨床試験 平成20年、21年度の試験では、数時間での香りの記憶保持機能について検討できた。しかし、物忘れ、認知障害が起こる際に重要となってくるのは、むしろ長時間の記憶保持能力であると考えられる。そのため、より長時間での精油の香りと記憶との関連について検討を行った。健康な20~25歳の男性30名で、画像・図形・時事単語・人の顔を提示し、香りを嗅ぎながら記憶する作業を6条件(香り5種類、香りなし)で行い、直後、2日後、4日後に、全く同じ条件で香りを嗅ぎながら、記憶した画像・図形・時事単語・人の顔を再生する、という内容の臨床試験を行った。その結果、画像・図形については、香り条件で記憶保持機能が高くなる傾向が見られ、また、記憶保持機能は香りによって様々に異なった。質問紙による個人の香りの嗜好と、記憶保持の結果に関連は見られなかった。 (2)香りリラクセーション技法の実験的検討 実際に香りをリラクセーションに用いるため、精油を用いた簡単なリラクセーション技法をEEG、ストレス指標の一つである唾液中コルチゾール、心理質問紙で検討した。無作為化クロスオーバー対照比較デザインで、健康な20~25歳の男性42名を対象とし、精油条件は、前年度までの結果から、精油2種類をブレンドした1種類のみにし、(1)安静(2)呼吸(3)呼吸+記憶(4)呼吸+記憶+香りの4条件を12分間ずつ実施してもらい、各条件を比較した。その結果、香りがあるときはγパワーの割合が高くなるという結果が得られ、香りが記憶を呼び起こす作業に関わっている可能性が示唆された。現在、投稿準備中である。
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