視床下部のレプチン感受性低下が過食を引き起こすことから、これが肥満の原因と考えられている。このレプチン感受性の低下が持続的運動によって改善するかを調べ、その機序について検討した。 平成20年度に実施した健常なWistar系ラットを用いた実験では、運動によるレプチン感受性の変化に統計的な有意差は認められなかった。このため、先天的に過食し、過度の肥満を呈する遺伝性肥満ラット(OLETFラット)を用いて、レプチン感受性改善効果を検討した。この実験は、脳室投与の手法を用いておこない、レプチンの脳室投与後における摂食量の変化を運動群・非運動群間で比較した。 その結果、投与後の摂食量は、非運動群に比べ運動群で統計学的に有意に減少した。しかし、運動群の摂食量をレプチン投与の有無で比較した場合、統計学的有意差は得られなかった。したがって、本実験の運動条件(乳酸性作業閾値強度による走行運動、90分/日を2週間)では、レプチン感受性の改善効果は認められなかった。運動による摂食量の低下は以前から報告されているが、この原因が運動によるレプチン感受性の変化によるとの証明には至らなかった。 現在、各種の飼育・運動条件を経たラットの視床下部(および脳各部位)において、近年長寿関連遺伝子として注目されているsirtuinタンパクファミリーがどのように発現しているか調査している。視床下部は摂食量や体重の決定をコントロールすると考えられ、ここにレプチンは強く関与するが、sirtuinファミリーが視床下部のレプチン感受性にも影響している可能性が想像されるためである。また、脳各部位におけるsirtuinファミリー発現状況を示した報告は少なく、これらの発現量の解析は、脳とレプチンに代表される生体のエネルギー収支の調節メカニズムを検討する上で重要と考えられる。なお、この解析は近日中に終了する予定である。
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