本年度は、午前中の3時間(9:00~12:00)に異なる強度の人工照明光(750、1500、3000、6000、12000lx)を被験者へ曝露し、その後のメラトニン分泌について検討した。実験は2日間で行い、初日の午前中をDim(<30lx)条件を曝露し、2日目の午前中に各光強度条件を曝露した。各実験日の夜間に排出された尿を採取し、尿中メラトニン代謝物濃度から各実験日に分泌されたメラトニン総量を算出した。実験初日のメラトニン総量に対する実験2日目のメラトニン総量から、光曝露によるメラトニン分泌増加量を評価した。また、各実験日の午後9時から午前1時まで30分おきに唾液を採取した。この唾液サンプルより唾液中メラトニン濃度を解析し、生体リズム位相の指標であるメラトニン分泌開始位相(Dim Light Melatonin Onset; DLMO)を算出した。本研究の結果、6000lxの光強度において、尿中メラトニン代謝物濃度が有意に増加することが認められた。さらに、3000lx以上の光強度において、DLMOが前進されることが確認できた。これより、午前中3時間といった短時間の光曝露でも、3000lx程度の光強度であれば、生体リズム位相を前進させる効果があることが明らかとなった。これまで日中の光曝露によって生体リズム位相を前進させるには10000lx以上の強強度の光曝露が必要とされてきたが、本研究の結果より、1日短時間の光曝露でも3000lx程度の中強度の光であればメラトニン分泌促進効果が得られることが明らかとなった。今回の成果は人工照明による光環境デザインや更なる人工照明光と生体反応に関する研究への応用が期待されるものの、メラトニン総分泌量と生体リズム位相への作用する光強度がそれぞれ異なった。よって、今後は、それらについて更なる検討が求められる。
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