本研究では、有明海の風土病として認識されている細菌性食中毒ビブリオ・バルニフィカス(Vibriovulnificus)感染症の新規な生物学的治療方法として「ファージセラピー」の開発を目的としている。平成21年度に実施した研究内容は下記の通りである。 1、ビブリオ・バルニフィカス感染性バクテリオファージの分離 風呂の水、トイレの水、川水、雨水、苔、砂、海水、排水、砂、土壌などの様々な分離源より7種のV.vulnificus株(P-11、P-15、A-2、K-1、K-2、K-10、L-5)に感染するバクテリオファージの分離を行った。ところが、いずれのV.vulnificus株に感染するバクテリオファージは得られなかった。 2、動物感染モデルの作成 C57BL/J6マウスにV.vulnificus ATCC27562^Tの培養液(10^7cfu)を右後肢足底部への皮下注射あるいは経口投与を行った。その結果、経口投与した場合、四肢に腫脹等の目立った変化は見られず、肝臓、胃、小腸においても特異的な所見は見られなかった。一方、皮下注射した場合、投与2時間後程度からV.vulnificus摂取側下肢の腫脹が認められ、6匹中2匹が投与後26時間以内に死亡し、その下肢浸出液からV.vulnificusが検出された。同様に、V.vulnificus K-6株の培養液を、マウス足底部に投与し、動物感染モデルの作成に成功した。 3、動物感染モデルへのビブリオ・バルニフィカス感染性バクテリオファージの投与 C57BL/J6マウスにV.vulnificus K-6株および感染性バクテリオファージを感染させたK-6株の溶原株(L-K-6株)を足底部に皮下注射した。その結果、K-6株では6匹中4匹が死亡したが、L-K-6株では、6匹中全匹生存した。また、L-K-6株では、培養液の増殖速度の低下と溶血活性の上昇が観察された。
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