鉄欠乏食の摂取は貧血だけでなく生体内の様々な代謝に関与していることが知られている。ラットへの鉄欠乏食投与は血清中活性型ビタミンD濃度を低下させ、骨形成の低下を引き起こすことをすでに観察している。昨年度の研究により、大腿骨中mRNA発現量を観察したところ、ラットへの鉄欠乏食投与はいくつかの骨形成関連遺伝子のmRNA発現量を低下させた。そこで本実験では、鉄欠乏食投与ラットの十二指腸中カルシウム吸収関連遺伝子の発現観察を行い、鉄欠乏投与時の骨代謝に及ぼす影響について検討した。被験動物として3週齢の雄性Wistar系ラットを用い、飼料はAIN-93G飼料組成に基づき正常食と鉄欠乏食、さらには鉄欠乏食に活性型ビタミンDを添加した飼料を作成し、4週間の飼育観察を行った。また、解剖前3日間の糞を採取し、カルシウム濃度を測定した。大腿骨は骨塩量、骨密度の測定を行った。十二指腸のカルシウム吸収関連遺伝子のmRNA発現量はTaqMan probeを用いたReal-time PCR法により解析を行った。4週間の鉄欠乏食投与により、大腿骨の骨塩量、骨密度の低下やカルシウム吸収率の低下が観察されたが、活性型ビタミンD投与によりこれらの低下は抑制された。十二指腸中カルシウム結合タンパク質のmRNA発現量は鉄欠乏食投与により有意に低値を示したが、活性型ビタミンD投与による影響は観察されなかった。以上のことから、ラットへの鉄欠乏食投与は、十二指腸中のカルシウム吸収に関わるmRNA発現量を低下させることにより、カルシウム吸収を低下させることも、骨密度の低下を引き起こす一要因であることが示唆された。
|