クロム(Cr)は糖代謝に関与する必須微量元素であるが、糖尿病の発症や進行に関連しているかどうかは不明である。我々は、尿中Cr排泄量が数日間の継続的な高血糖状態で増加することをこれまでの研究から明らかにしている。そこで本研究では、高血糖でのCr動態を解析することを目的として、ストレプトゾトシン(STZ)を投与して高血糖を誘発したマウスまたはラットを用いて体内Cr動態および尿中Cr排泄量を検討した。まず、実験1として、c57BLマウスにSTZを投与して高血糖マウスを作製し、正常マウスを対照として、STZ投与後3日目の24時間尿と各臓器中Cr濃度を測定した。その結果、高血糖マウスの尿中Cr濃度および排泄量は正常マウスと比較して著しく低値を示し、先行の知見と同様であった。一方、高血糖マウスの臓器中Cr濃度は正常マウスと比べて腎臓で有意に高値となった。先行研究において糖尿病マウスでは腎臓中Cr濃度の低下が認められていることから、腎臓中Cr濃度は高血糖惹起後一時的に上昇する可能性が示唆された。以上の結果をふまえて、実験2ではカニューレ手術を施したSDラットにSTZ投与した高血糖ラットを作製し、カニューレ手術のみを施したSDラットを対照として、血糖値の変動が体内Cr動態に影響するかどうか血漿中Cr濃度を指標として検討した。STZ投与後3日目にグルコース投与後経時的に採血し、血糖値および血漿中インスリン濃度と血漿中Cr濃度を測定した結果、血漿中Cr濃度はグルコース投与による血糖値上昇に伴って低下し、血漿中インスリン濃度や高血糖状態の影響を受けないことが明らかになった。したがって、体内Cr動態は高血糖状態が数日続くと尿中Cr濃度および排泄量とともに変化し始め、高血糖状態の期間によって変動する可能性があり、血漿中Cr濃度と体内Cr動態との関連性は今後詳細に検討する必要がある。
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