研究概要 |
22年度は特に,科学者から発信した情報が,社会にうまく伝わらないケースについて議論を行ってきた.特に科学者から発信した情報が,どのような過程でゆがめられ,当初の意図をはずれた情報として社会に伝わるかについて議論を行った.また,科学者が意図的にデータに手を加えるなどする際に,何を目的としてそのような行動に走るかについても議論した.具体的には2009年11月に問題がおきたClimategate事件に関連して,気候変動,温暖化の情報が伝わる過程について調べた. 問題は複雑で,大きく分けて(1)発信側(科学者)の問題,(2)メディアの取り扱い.(3)受けての傾向があり,特に(3)については社会心理学と共同の研究をしていく必要があることが明らかになった.また,(1)は意図的にデータを触るなどの問題の他に,科学者内に対立構造があった際に,問題が複雑になることがあきらかになった.具体的には(1)の中に対立構造があると,優勢がどちらであろうと,(2)によって対立構造を示されてしまうため,必然的に(1)の中の優勢の情報が,優勢さをたもって(3)に伝わらないことがわかった.また,(2)については,話題になることを好んで描く傾向,ポピュリズムに迎合する可能性等も否定できず,(1)と(3)の双方にとって好ましくない状況が否めないこともわかった. 総じて,科学者に必要な科学コミュニケーションとは,一言でまとめることは困難であるが,(a)後継者となる若手を育てるコミュニケーション,(b)得られた知識を社会に還元するアウトリーチ,(c)社会と科学の間に横たわる問題を解決するためのコミュニケーションがあるが,特に(c)については,今年度の議論からわかるように,今後も対策を考え続けなければならないことが明らかである.
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