本研究は、授業映像と電子掲示板を用いて組織を越えて集った大学教員が授業検討会を行う「Web公開授業」の実践を通じ、有効な大学教育における授業改善の方略を提案し、その利用可能性や効果的な運用方法を明らかにすることを目的としている。平成21年度は、2つの授業についてWeb公開授業実践をおこなった(6月22日~7月6日:参加者51名、12月14日~28日:参加者54名)。公開された授業は、中規模私立大学における大人数講義、および、学生の学習への動機づけを高めるために演示実験を導入した講義であった。第1回目までの実践の分析結果については日本教育工学会(9月、東京大学)で研究報告をおこなった。対面で互いに面識のあった既存の参加者集団に、面識のない参加者が参入したことで、サイトへのアクセス数や投稿数の割合が減少するなど、掲示板上で発言しにくい状況が生じており、単純に実践への参加者規模を拡大する方向性の限界を指摘した。これと関連して、学問分野別や教育上の課題別などで教員コミュニティを構成しての検討会実施の可能性を提案したが、前年度のWeb公開授業実践の授業者に対しておこなった半構造化インタビュー(6月実施)の結果においても同様の意見が出された。インタビューにおいては、翌年度の授業デザインを検討する際、議論された内容を教員が読み返す機会があり、授業者にとって本システムが継続的な授業改善の場として活用されうる可能性が示唆された。予定していたシステムの改修は、上記のコミュニティ規模に関する課題が残されたためにおこなわなかった。また、高等教育におけるICTを活用した大学教員研修に関する動向調査や情報収集を、関連書籍や国内のシンポジウムへの参加などを通じておこない、本研究最終年度に向けて、オンライン上の相互研修システム構築や理論構築に向けて準備を進めることができた。
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