研究概要 |
生物が生命を維持するためには塩の摂取が必要不可欠である。現在、世界中で1年間に約1億8千万トンの塩が生産されているが、塩の生産は、岩塩や塩湖など海水以外の塩資源が主であり、海水由来の塩は全体の約1/4である。岩塩や塩湖の存在しない日本では、塩の生産の起源は海水である。日本では、古代の塩のひとつに藻塩と呼ばれる海藻や海水を利用して得られた塩がある。この研究では、製塩土器や藻塩の作成にかかわったとされるいくつかの遺物の木質容器などの遺物・遺構の付着物を分析対象とし、その付着物から推測される『古代の塩』の起源を、環境放射能および同位体から明らかにした。付着物から推定された藻塩の材料の検証を行い、試料中の環境放射能および同位体から妥当性の検討を行った。さらに、藻塩の産地を同定するために、その材料に含有される放射性物質もしくは元素の選定を行い、産地判別の基礎を提供した。海藻類の微量元素のうちFe, Ti, Ce, Mn, Cuは半閉鎖系水域である瀬戸内海にて高い傾向にあり、表層海水中の^<228>Ra濃度も同海域にて顕著であった。これらの微量元素の特性を組み合わせることにより、瀬戸内海、太平洋側、日本海のうちどの海域を産地とした藻塩であるのか判定する基礎となる可能性を示唆した。 また、付着物の生成時期を利用して次のアプリケーションを行った。核実験後の海水は核実験起源の放射能で汚染されていることが報告されている。海水起源と考えられる藻塩またはその残留物の放射能を測ることで、核実験前の古代の海水の放射能を知ることができる。古代塩の材料の一つである海藻を指標とし、人間活動の大きさと海洋環境の変化の比較を行った。現在の海洋環境における海藻中の^<129>I/^<127>I同位体比は、核実験前の時代の100倍以上に上昇し、急速な人間活動が海洋環境を変化させることが明らかとなった。
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