研究概要 |
土器に付着した炭化物や胎土に吸着した有機物の起源を推定するために,炭素14年代測定、安定同位体分析、ステロール分析法などを行った.とくに,考古学的な由来がきちんと整った遺跡の同一包含層から出土した複数の遺物や科学的に同定された試料を用いて,主として以下の二点に関して研究を行った. 1) 雑穀の起源と伝播に関する研究 これまで,顕微鏡観察によって同定された土器内面に付着した炭化キビ粒を炭素年代測定することにより,縄文晩期から弥生初頭にかけてキビが確実に琵琶湖周辺に存在し,調理されていたことを発見してきた.さらに顕微鏡観察によって同定された炭化した雑穀と安定同位体分析によってC4植物と推定された付着炭化物,それぞれの確実な年代測定事例を整理し,学術創成研究で行った灌漑水田稲作の列島への拡散経路と比較することにより,"日本列島における雑穀の起源と画期"に関して考察を行った.その結果,縄文時代における雑穀の確実な検出事例はまだ報告されておらず,近畿,東海地域における雑穀栽培の画期は,弥生時代前期末から中期初頭ごろと推定した. 2) 見かけの海洋リザーバー効果を利用した遺物の食性と環境復元 複数の遺物間の見かけ上の炭素年代の大小関係を,測定した遺物の由来や生育環境などを考慮して,詳細に考察した.例えば,貝類では,種毎に異なる生息環境の塩分濃度が上昇するにつれて(淡水から外洋へと変化するにつれて),見かけのリザーバー効果は大きくなり,当時の遺跡周辺の外洋を反映する値に収束する.さらに,遺跡周辺を流れる海流が示す見かけのリザーバー効果よりも,より古い炭素年代を示す遺物が測定された場合には,その遺物は、さらに大きなリザーバー効果を示す環境(海流、水塊)で生育していた可能性が示唆される.したがって,同時代の海洋環境に存在する動物骨,海産資源を調理したであろう土器付着炭化物,胎土吸着物などの遺物を利用することによって,当時の遺跡周辺の海洋環境や生業をより詳細に復元することができるようになるかもしれない.
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