本研究では、流体解析、熱水分解析などの数値解析を利用して、石窟壁画の温度・水分量・受照光量の3要素についての定量化を行い、環境要因の影響度と劣化の分布性状との相関関係を明らかにし、壁画の劣化に影響を及ぼす環境要素の特定とその影響について、考察することを目的としている。現在、文化遺産国際協力センターで事業を継続しており、壁画の保存状況について詳細調査が行われている敦煌漠高窟第285窟の壁画を主な調査対象としている。基礎データの収集、数値解析と環境要素の定量化、壁画の劣化に関するデータ収集、劣化と環境要素との相関関係の解明をすすめる。さらに、過去・未来の環境について数値解析シミュレーションを実施し、劣化以前や将来の状態について予測行うことを目標とする。 計画の2年目となる本年度は、敦煌莫高窟において、石窟内の温湿度、気流、光量の環境調査を実施し、石窟内に生じている環境分布について考察した。外部との空気の流れの要因としては、温度差による自然換気が主であり、外部風の影響が小さいことを明らかにした。 石窟の開口部から壁画表面に射入する日射量について、開口や石窟の形態を考慮した数値解析を行った。開口部からの日射は、直達日射に比べて天空放射の影響が大きいことを明らかにした。また、有機材料を利用したと考えられる彩色の槌色や変色と光の照射量に関係があることが考えられる。 今後は、周辺の岩盤を含めた熱水分同時移動解析による石窟内の温湿度環境の解析、環境要素それぞれについて壁画の制作から現在までの長期にわたる解析、それらデータと劣化状況との比較について検討を行う予定である。
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