研究概要 |
本研究の目的は小笠原諸島の乾性低木林において, 特に植物の水利用様式に着目して, 乾燥ストレスに対する構成種の生理的な応答プロセスを明らかにし, それに依拠して今後予想される乾燥化の影響を評価することである. 本研究ではまず, 父島気象観測所のデータを用いて, 最近10年間の小笠原諸島の水文気候環境を明らかにした. その結果, 2002年以降は乾燥する傾向にあり, 特に乾燥した2004年は季節的な土壌水分量の著しい低下により, 幹生長の抑制や葉の水ポテンシャルの低下などといった構成種の生理生態的な特性に強い影響を与えていた. 20世紀後半からの乾燥化は2001年以降も進行しており, 今後2004年のような強い乾燥年が起因となって, 島嶼生態系の急激な変化を引き起こすことが予想された. こうした長期的な乾燥化にともなう土壌水分量の低下により, 乾性低木林の構成種がどのような影響を受けるのかについて明らかにするため, 構成種の水利用様式, 特に乾性低木林の優占種であるシマイスノキ蒸散量に着目し, その季節変化と水文気候条件との関連性を検討した. その結果, 乾燥ストレスを受けていない期間(土壌の体積含水率が30%以上)では, シマイスノキの蒸散量は大気飽差に対応し, 大気飽差に応じた季節変化が認められた. 一方で, 乾燥ストレス下(土壌の体積含水率が30%以下)では, シマイスノキの蒸散量は大気飽差と対応せず, 乾燥ストレスを受けていない期間と比較して少なかった. したがって, シマイスノキは水利用様式を変化させ, 蒸散量を抑制することで, 季節的な乾燥ストレスに耐えて生育していることが明らかとなった. 以上のことから, 今後乾燥化がさらに進行した場合, 水文気候条件に応答した構成種の水利用様式の変化を通じて, 小笠原諸島の固有植生は気候変化の影響を受ける可能性が示唆された.
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