研究概要 |
本研究では, 現地調査と衛星データから中央アジアの天山山脈における最近の氷河変動と氷河湖の現状を明らかにすることを目的としている. 平成20年度におこなった研究内容, 意義, 重要性を以下の二つの研究課題ごとに記す. (1) 衛星画像解析と気象観測記録を用いた最近の氷河変動の現状評価 1971年に撮影されたCorona, 2000年頃に撮影されたLandsat 7 ETM+, 2007年に撮影されたALOS PRISMデータを用ちいて, 天山山脈の4つの山岳地域の氷河面積の変化を計測した. その結果, 天山山脈外縁部で氷河縮小が大きく, 特に西天山のPskem地域で縮小は最大であった. 天山山脈外縁部は人口が集中しており水の使用量はかなり多い. しかもPskem地域の乾季は夏であり, 今後も予想される氷河縮小による河川流量の減少は生活用水や灌漑農地の水量の減少が懸念される. 天山山脈の氷河変動の地域的な違いとその地域の影響について新しいデータを提示できた. (2) 衛星画像解析と現地調査による氷河湖決壊の危険度評価 2008年7月24日にキルギスタン北西部で氷河湖が決壊した. 決壊した2日後におこなった現地調査によって被害状況やその決壊の要因, 流出量などが明らかになった. この調査結果は地元の新聞に掲載され, 地元住人の自然災害に対する知識の向上に貢献できた. さらに, 緊急災害省の対応の見直しや地元の村での話し合いなど大きな反響があった. また, 衛星データを用いて天山山脈の氷河湖の分布や発達速度などを調べた. 天山山脈の氷河湖は小規模なものが多く, その分布は氷河縮小が大きい山脈外縁部に集中していることがわかった. これら氷河湖は1970年代以降に発達したものがほとんどで急速に発達したようである. 本研究で作成する氷河湖分布と決壊の危険度評価は, 下流域でくらす人々が自然災害に対する意識を向上させ, 氷河湖分布を把握する重要なデータである.
|