本研究は、サブメソスケールで起こる栄養塩湧昇のメカニズムの解明を目標とし、2年目である平成21年度においては、数値実験や現場観測を行った。平成21年度においては、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究船共同利用に採択され、同機構の「なつしま」を用いた大規模な黒潮フロントにおける現場観測を行った。観測は、平成21年10月17日から24日まで行い、主催した東京海洋大学をはじめ、University of Massachusetts Dartmouth、Woods Hole海洋研究所、マサチューセッツ工科大学の研究者らが多数参加した。観測では、黒潮フロント域における乱流構造と密度構造(水温、塩分)等の海洋物理構造をはじめ、植物プランクトンや動物プランクトンの種組成を調べるためにVisual Plankton Recorderを用いた。また、持ち込んだ採水器でフロント域の栄養塩分布の特徴の調査を試みた。フロント域における乱流混合は、性質の異なる水塊の境界であるフロントでの様々な物質輸送に非常に重要である。まず、乱流拡散によって等密度面を横切る拡散による輸送が生じる。また、フロントでの乱流は拡散のみならず、"摩擦"が引き起こすセカンダリ-循環を介して輸送を生じる。本観測で行った現場観測では、黒潮フロントの最もフロントが強化されている断面で、低塩分水が表層から水深300mまで舌状分布しサブダクションしている様子を捉える事に成功した。この時に同時に測定した乱流運動エネルギー散逸率は低塩分水の舌状構造内部で平均的に10^<-8>W/kg程度を示しており、低塩分水が混ざりながらサブダクションしていることを示唆する。研究代表者は、この結果をOcean Sciences Meeting 2010 Portlandにて口頭発表した。今後は、本観測で得た乱流データがフロント構造とどのように関わっており、上記した二つのメカニズム(拡散とセカンダリーフロー)を経てフロントにおける物質輸送に如何に寄与するのかを調査する。さらに、平成21年度優秀若手海外派遣事業に採択され平成21年3月31日からUniversity of Massachusetts Dartmouthに訪問研究者として1年間在籍しており、本分野で先駆的な研究を行っているProf.Amit Tandonと共同でデータを解析する予定である。
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