本研究では、2009年秋期にJAMSTECの調査船「なつしま」を用いて、東京海洋大学、マサチューセッツ大学、ウッズホール海洋研究所、マサチューセッツ工科大学と共同で実施した。観測の結果、黒潮フロントは、暖水側の混合層域と黒潮本流直下の躍層付近で、相対渦度の寄与から低渦位となっており、この低渦位水塊周辺で乱流混合が強いことが明らかとなった。この結果は、Symmetric Instabilityによるフロント周辺域の乱流混合強化を間接的に報告したD'Asaro et al.(2011年3月Science Magazine受理)の結果を支持するものである。しかしながら本研究結果は乱流をより直接的に測定して得た結果であるので、非常に重要な意味を持つと考える。また、黒潮本流直下が低渦位であり、乱流が強いことを示した結果は、これまで報告されていない為、黒潮フロント域が混合層から躍層以深まで、乱流混合・散逸が卓越して発生する海域であることを示す興味深い結果である。この結果は、Journal of Geophysical Researchに投稿中である。また、本観測結果を初期条件とした高解像度非静水圧モデルを用いた黒潮フロントの数値実験を実施した結果、黒潮フロントが数kW/m程度のエネルギー流量を持つ内部波を励起している可能性が明らかとなった。この結果は観測した非地衡流シアの様子を現実的に再現するもので、黒潮フロント域の非地衡流シアの構造が内部波によってつくられていることが示唆された。本結果は、Science Magazineに投稿を予定している。 また、MITのClayton氏らは、本観測で得た海水を分析した結果、高栄養塩水が表層から混合層フロント南部の混合層下部ヘサブダクションしている様子を示した。この結果は、高栄養塩水である親潮水がサブダクションによって黒潮フロント域へ供給される可能性を示し興味深い。
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