近年の、中国をはじめとした東アジア地域における急速な経済成長によって、地域レベルでの深刻な大気汚染だけでなく、地球環境問題への重大な影響が懸念されている。日本列島は大陸の東端に位置し、冬季から春季にかけて西風が卓越するため、その期間に大陸の大気汚染物質が顕著に輸送される。また、春季には黄砂もエアロゾル粒子として輸送される。そこで、独自に開発した単一エアロゾル粒子のサイズと化学成分を実時間で同時に測定するレーザーイオン化個別粒子質量分析計を用いて、2009年春季の東京において、黄砂を主とした単一エアロゾル粒子の実時間観測を行った。本研究の目的は、大陸から輸送される汚染大気中のエアロゾル粒子の化学成分を個別粒子解析し、粒子の化学成分の特徴を把握することである。 予備実験として、標準粒子測定を行った。レーザーアブレーションによってイオン化される物質はそのイオン化効率が異なるためである。あらかじめ相対感度を測定しておかなければ、その物質の量を過大評価してしまったり過少評価してしまったりする。そのため大気エアロゾル観測に応用したときに検出できると予想される化学成分(硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸水素アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、人工海水、リンゴ酸、2-オキソグルタル酸、オレイン酸、ノナナール、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、軽油、新品オイル、使用済オイル)をネブライザーにより粒子化し、開発した装置に対する相対感度のデータベースを作成した。 3月に観測を行ったため、まだ初期的な解析しか行えていないが、黄砂飛来期では非黄砂飛来期とくらべ土壌粒子と硝酸塩の増加が見られた。また、有機物が付着している土壌粒子が頻度は少ないが観測された。引き続き観測データの解析を行い、大陸から輸送される汚染大気中のエアロゾル粒子の化学成分の特徴を把握する予定である。
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