現在我々人間の活動により急速に増加しつつ有る大気中の二酸化炭素は、海水中に溶解しpHを低下させ、さらに炭酸カルシウム飽和度を低下させることが懸念されている。将来、ますます大気CO2濃度の増加が予測されているなかで、この様な海水の化学環境の変化が生物ならびに海洋生態系にどのような影響を与えうるのかを解明することが急務となっている。この様な背景の元、本研究は、特に影響を受けると予測されている石灰化生物(炭酸カルシウムの殻や骨を有する生物)を対象に、大気CO2濃度増加がこれら生物にどのような影響を与え、さらにその影響のメカニズム解明を目的として行った。 本研究の結果、二酸化炭素濃度を増加させた海水がウニや貝類(カキ、ムラサキイガイ)の幼生時の殻や骨の形成に直接影響し、骨格の形成異常や阻害を引き起こすことが明らかとなった。幼生期の殻や骨の形成異常はさらにその後の発生に影響し生存率を著しく低下させると考えられる。さらに今回初めて、海水中のCO2濃度が直接石灰化に関わる遺伝子のうち、カルシウムイオンの運搬に係る遺伝子の発現が抑制されること、さらにその抑制はCO2濃度に依存的であることが明らかとなった。これまで海水中の二酸化炭素濃度の上昇が石灰化機構に及ぼす主な原因として炭酸カルシウム飽和度の低下という化学的機構が中心となっていると考えられてきたが、本研究より生物が遺伝子レベルにおいても影響を受け、その結果殻の形成異常などの影響を受けることが明らかとなった。
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