真核微生物ラビリンチュラ類は海洋生態系において落葉等の陸源有機物の分解者として重要な役割を果たしていると考えられているが、食物連鎖における生態学的役割については未だ明らかでない。本研究の目的はラビリンチュラ類とそれらの捕食者である動物プランクトンとの関係を明らかにすることであり、室内における摂餌実験から被捕食者間の脂肪酸の動態を調べた。 脂肪酸組成の異なるラビリンチュラ類5属(Aurantiochytrium属、Schizochytrium属、Oblongichytrium属、Parietichytrium属、Thraustochytrium属、およびUlkenia属)を動物プランクトンであるワムシBrachionus plicatilisに給餌し、ラビリンチュラ類およびワムシの脂肪酸組成を比較した。脂肪酸の分析はガスクロマトグラフィーにより行った。 ワムシによるラビリンチュラ類の摂餌は顕微鏡下において観察された。ラビリンチュラ類を摂餌したワムシの脂肪酸組成は、与えた株の脂肪酸組成を反映した。Aurantiochytrium属およびUlkenia属を摂餌したワムシの脂肪酸にはパルミチン酸、ドコサペンタエン酸(n-6 DPA)、およびDHAが多く含まれた。一方、Schizochytrium属およびThraustochytrium属を摂餌したワムシの脂肪酸にはパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、n-6 DPA、DHAに加え、アラキドン酸、EPA等の高度不飽和脂肪酸がみられた。このことからラビリンチュラ類は海洋生態系において動物プランクトンの餌生物として高度不飽和脂肪酸を供給していることが示唆された。
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