平成21年度は、臭素化多環芳香族炭化水素(BrPAHs)の大気環境動態ならびに生体毒性に関する基礎的知見を得るため、大気環境分析ならびに光分解試験、さらに生体毒性評価としてダイオキシン受容体(AhR)との結合活性化能について評価した。具体的には、ハイボリュームエアーサンプラーを用いて採取した静岡県内の大気粉塵試料を高分解能GC/MSに供したところ、11種類のBrPAH標準物質の内、7種を世界で初めて検出することに成功した。大気粉塵中のBrPAHsは夏季に低濃度、冬季に高濃度になる傾向があり、親化合物であるPAHsと同様の大気環境動態を示すと思われる。しかしながら、BrPAHと親PAHの濃度間に有意な相関は認められなかったことから、BrPAHsの光安定性や発生源はPAHと異なることが示唆された。そこで、有機溶媒中でBrPAHsの光安定性を評価したところ、PAHより速やかに光分解する傾向が見られた。BrPAHsの毒性評価として遺伝子組み換え酵母を用いてBrPAHsのAhR活性を評価したところ、それぞれの塩素化体と同程度の活性を示した。これらの結果は、PAHsのハロゲン置換による物性・毒性変化は、置換したハロゲンよりも骨格のPAHに大きく依存していると思われる。一方、昨年度実施した塩素化PAHsの環境調査は、今年度米国河川土壌や中国家電リサイクル施設など広域環境分析に展開したところ、全ての試料から多数のClPAHsが検出された。すなわち、ClPAHsは環境中に普遍的に存在している可能性があり、今後更なる環境調査や毒性評価が必要となるであろう。とくに、高塩素化したPAHの存在も今回の環境分析から示唆されており、このようなハロゲン化PAHの標準試料の作製も重要な課題となると思われる。
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