研究概要 |
最近、大気環境中から多環芳香族炭化水素(PAH)に塩素原子や臭素原子が複数置換したハロゲン化PAHが見出されてきた。これらハロゲン化PAHの環境動態ならびに生体影響に関する知見は極めて乏しく、未だ不明な点が数多く残されている。これまで本研究課題では、様々な環境中からハロゲン化PAHが普遍的に存在していることを見出し、ダイオキシン受容体との結合活性化能からハロゲン化PAHの暴露リスクを算定してきた。本年度は大気環境におけるハロゲン化多環芳香族炭化水素の変質と生体影響の関係について検討を行った。被験物質として3環系のphenanthreneの1塩素、2塩素置換体を用い、所定時間有機溶媒(シクロヘキサン)中で低圧水銀ランプによる光照射を行い、光分解産物の遺伝毒性をAmes試験にて評価した。Ames試験はSalmonella Typhimurium TA100株を用いて行った。この結果、phenanthreneの2塩素置換体(9,10-dichlorophenanthrene,9,10-Cl2Phe)は9時間光照射することで光照射前に比べて有意に復帰コロニー数が増加し、9,10-Cl2Pheの光分解産物は直接変異原性を有することが示唆された。そこで遺伝毒性を有する9,10-C12Pheの光分解産物を特定するため、光照射後の試験溶液を紫外可視吸収スペクトル解析ならびにGC/MSに供した。紫外可視吸収スペクトルの結果から、9,10-C12Pheのベンゼン環に起因する吸収強度が光照射によって継時的に減少し、紫外領域(<250nm)の吸収強度が僅かに増加した。一方、GC/MS分析から9,10-Cl2Pheの光分解産物を特定することはできなかった。これらの結果から遺伝毒性を有する9,10-C12Pheの光分解産物は、極性基を有する化合物に変質している可能性が示唆された。今後、ハロゲン化Pl田の環境・生体分解産物の毒性評価を進めることで暴露リスク評価を更に高度化できると思われる。
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