研究概要 |
近年,陸域から沿岸域へ流出するNO_3が増大している.そのため沿岸域の水質の富栄養化や酸性化が懸念されており,NO_3の消失過程を把握することは沿岸域の窒素浄化にとって極めて重要である.沿岸域におけるNO_3の消失には脱窒とアンモニアへの異化型硝酸還元(DNRA)が考えられる.脱窒は,窒素を系外に放出する過程であるのにたいして,DNRAは系内に窒素をとどめてしまう貯留する過程である.どちらの過程が優位になるかによって窒素浄化の程度は大きく異なり,沿岸域の富栄養化に大きな影響を及ぼす可能性が高い.このような重要な過程でありながら,特にDNRAに関しては不明な点が多い.そこで本研究では,汽水域である涸沼および淡水域である釧路湿原を調査地とし脱窒とDNRAの時空間的変動特性を解明することを目的とする. 釧路湿原の間隙水中のNO_3のプロファイルは深度に伴って高くなり涸沼とは異なる傾向が得られた.間隙水中の溶存有機物質の性質を解析したところ,腐植物質が含まれていることが解った.この結果より,釧路湿原の深い土壌中においては脱窒細菌が利用できる有機物が少ないため脱窒が進行し難く,結果としてNO_3が蓄積していたと考えられた.DNRA過程の関与については現在検討中である.今後湿原へ窒素負荷量が増えた場合,土壌中で窒素種の蓄積が起こり,湿原および集水域で富栄養化や酸性化などが引き起こされる可能性がある.
|