研究概要 |
昨年度までの研究で,淡水域釧路湿原の間隙水中のNO_3-のプロファイルは土壌深度に伴って高くなったのに対して,汽水域澗沼は逆のNO_3-プロファイルを示すことが解った.この要因について釧路湿原の土壌深層部は脱窒細菌が利用できる溶存有機物が少ないため脱窒が進行し難く,結果としてNO_3-が蓄積していたと予測された.今年度は間隙水中の溶存有機物の質の違いが脱窒に与える影響について研究を行った. 釧路湿原間隙水中の溶存有機物を蛍光分光光度計による3次元蛍光スペクトル法を用いて解析した結果,腐植物質様ピークがいくつか現れ,間隙水中の溶存有機物の多くは腐植物質であると考えられた.また,土壌深度に伴って腐植物質様ピークの数が増加したことから,表層に比べて深層部に腐植物質は多く存在すると予測された. 湿原土壌深層部の脱窒に溶存有機物を与える影響を観るために,グルコースを添加し脱窒のインキュベーション実験を行った.インキュベーション初期においてグルコースの添加で脱窒活性が大きく増加することはなかったが,インキュベーションの後半には著しい増加が観られた.また温度を変化させたインキュベーション実験によって,脱窒活性が温度の増加に伴って増加することが解った.釧路湿原の土壌深層部における地温は夏においても約5℃(約2m)である.これらのことから,釧路湿原の土壌深層部の低い脱窒活性は,第一に低い地温に抑制されており,さらに間隙水中に脱窒細菌が電子供与体として利用できる溶存有機物が少ないためであると考えられた。
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