研究概要 |
水域生態系において、ウィルス感染は生物の重要な死亡要因である。本研究では、ウィルスの粒子吸着過程に着目し、コイヘルペスウィルス(KHV)をモデルウィルスとし、水域生態系において懸濁物質がウィルスの動態に与える影響を明らかにすることを目的とした。 これまでの研究で、堆積物に含まれる鉱物がKHVの吸着物質として重要であることが明らかになったため、当該年度は質の異なる堆積物にKHVを吸着・遊離させる室内実験の解析を行った。その結果、泥がウィルスをよく吸着させること、さらにbeef extractの存在下で泥から水中へ遊離するウィルス量が約100倍になることが明らかになった。このことは、水中の有機物濃度がウィルスの遊離に影響を与えることを示唆している。これまでの研究結果と合わせると、堆積物中の鉱物はウィルスのリザバーとなっており、かつ水中の有機物がウィルスの遊離を促進することが考えられ、水中でのウィルスの動態を知る上で重要な知見である。 さらに、懸濁物質への吸着がKHVの生残性に与える影響を評価するため、バクテリアやカビなど夾雑物を含む環境サンプルからKHVの感染力を定量化する方法を検討した。その結果、コイの培養細胞を用いて環境水からKHVの感染力を定量する方法を確立した。複数の培地、培養細胞密度、培養プレート(8well, 24 well, 96well)などの条件検討をした結果、培地にはL-15を用い、24 wellの培養プレートでTCID50を求める方法がもっとも再現性がよく、コイの飼育水を抗菌・抗カビ剤処理することで感染力の定量化に成功した。 これまで得られた結果の一部は、国際学会および国内学会で発表するとともに、国際誌に論文として発表した。
|