研究概要 |
研究目的に沿い、主に以下の3つの研究項目を実施した。 1)衛星観測データの蓄積用データサーバーの構築とデータ処理:光学的に薄い巻雲の解析に有効な衛星搭載ライダーCALIPSO/CALIOPの雲情報(雲頂高度、光学的厚さ等)とAura/EOS MLSの水蒸気量データ、積雲等の光学的に厚い雲の情報を得られるCloudSatの雲データ(レーダー反射強度等)をCALIPSOの運用が開始された2006年6月から約3年間分収集し、解析に利用できるように処理した。具体的には、データサーバーを構築後、日々公開される大容量の衛星データの自動取得ツールを開発し、データの蓄積を行っている。またデータ形式変換ツールを開発し、衛星データの提供形式(HDF)を解析ツールに適した形式(NetCDF)に変換し、解析に用いた。 2)南半球成層圏突然昇温(SSW)の熱帯大気へ与える影響の経年変化の調査:2006、2007年南半球春・冬季に南半球で発生したSSW時の熱帯域での積雲対流と巻雲の変動を、衛星の雲データを用いて調査した。その結果、エルニーニョ・南方振動(ENSO)とアジアモンスーンの影響を強く受ける対流活発域でSSW発生後に対流活動が活発となり、巻雲発生頻度が増していた。さらに成層圏の準二年周期振動(QBO)が東風偏差の時(2007年)に熱帯対流圏界面がSSW後により冷え、巻雲が多く発生していた。対流圏と成層圏の力学場の経年変化によってSSWの影響の現れ易い場所とその影響度合いに経年変化が見られた。 3)SSW発生前後の熱帯域での積雲・巻雲の特徴の変化:2007年SSW後に南米大陸等の陸域で雲頂高度が数km高くなり、その直上の限られた領域で巻雲が多く発生していた。一方、インド洋東部から西部太平洋上の海洋大陸域では積雲対流の雲頂高度の変化は顕著に見られなかったが、対流圏界面近傍の気温低下が数Kと著しく広範囲に及び、その低温域で巻雲が多く発生していた。巻雲の形成過程が地域によって異なることが示された。 なお、上述の研究成果を国際学会等で発表し、項目2,3に関しては学術雑誌への投稿準備中である。
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