地球温暖化に伴う気温上昇は、微生物による土壌有機物分解を促進し、土壌からのCO_2放出量の増大によって、さらに温暖化を加速させる可能性が危惧されており、土壌に蓄積される炭素の環境変化に対する応答には大きな関心が寄せられている。しかし、土壌がもつ微生物分解特性の多様性が、この応答の定量的な予測を困難なものにしている。 本研究では、土壌有機物の中に、宇宙線を起源とする放射性炭素と、近年の核実験を起源とする放射性炭素が存在することに着目して、土壌有機物中の安定炭素に対する放射性炭素の存在比(放射性炭素同位体比)から、土壌有機物の滞留時間を推定することを試みた。 アジアフラックスネットワークの観測地のひとつである岩手県安比森林気象試験地の冷温帯ブナ林土壌を対象に、表層リターと表層鉱物土壌を化学処理し、加速器質量分析装置によってそれらの放射性炭素同位体比を測定し、放射性炭素同位体比が大きく異なる土壌有機物に分別することに成功した。それらの放射性炭素同位体比から、各土壌有機物画分の土壌中での滞留時間を推定することによって、安比森林気象試験地のブナ林土壌を、数年から千年以上にわたり異なる滞留時間を有する6つの炭素貯蔵庫の複合体として捉えることができた。さらに、各複合体の温度変化に対する応答の予測計算結果から、21世紀末までの地球温暖化進行に伴い、全土壌有機炭素の約50%を占める滞留時間が数十年〜二百年程度の土壌有機物からの炭素消失が促進され、CO_2放出量の増大に重要な役割を果たす可能性があることを明らかにした。 本成果は、土壌中での滞留時間が数十年〜二百年程度の有機炭素の蓄積量を地球規模で算定すれば、将来の地球温暖化に対する土壌の応答の規模と時期をより正確に予測できることを示唆するものである。
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