地球温暖化に伴う気温上昇は、微生物による土壌有機物分解を促進し、土壌からのCO_2放出量の増大により、さらに温暖化を加速させる可能性が危惧されている。土壌有機物は、分解程度の異なる種々の有機物から構成されている。土壌有機物の分解特性の多様性を定量的に解明することが、温暖化に対する土壌の応答を正確に予測するための鍵である。また、地表面から放出されるCO_2(土壌呼吸)は、土壌有機物分解を起源とするCO_2と、植物の根呼吸を起源とするCO_2の和である。したがって、土壌呼吸の起源を分離評価することが、大気―陸域生態系間の炭素交換メカニズムを解明する上で重要である。 本研究では、土壌有機物中に存在する宇宙線起源の放射性炭素(^<14>C)を数百年から数千年の、1950-60年代に行われた核実験起源の^<14>Cを数年~100年程度の滞留時間の推定に利用することで、土壌有機物の分解特性の多様性を、滞留時間の違いとして定量的に表現することを試みた。 アジアフラックスネットワークの観測地のひとつである岩手県安比森林気象試験地の土壌(リター層と、表層土壌20cm)を化学処理し、加速器質量分析装置によって有機物画分の^<14>C同位体比を測定した。その結果に基づき、各有機物画分の炭素平均滞留時間を推定し、滞留時間帯ごとの炭素量を算定することで、滞留時間別炭素貯留量を明らかにした。また、分画された各有機物に対して、炭素貯留量を滞留時間で除することにより、有機物分解により放出されるCO_2量を推定した。その結果、全炭素貯留量の約10%を占めるに過ぎない、滞留時間が10年未満のリターと植物の分解残渣からのCO_2放出が、全放出量の70%以上を担っていることを明らかにした。さらに、本研究で推定した土壌有機物分解起源のCO_2放出量と、同サイトで測定された年間土壌呼吸量を比較することで、土壌呼吸の起源を分離し、全土壌呼吸の31%がリター層におけるリター分解、29%が土壌有機物分解、40%が根呼吸によることを明らかにした。 放射性炭素を利用した本手法により、土壌有機物の分解特性の多様性を、滞留時間別炭素貯留量として定量的に表現することが可能となった。また、従来の土壌呼吸測定データと組み合わせることにより、土壌呼吸の起源分離も可能となった。土壌モデルを構成する各炭素プールのサイズと分解速度に関する知見の提供及び、森林内生態系内の炭素循環プロセスの詳細理解につながる成果である。
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