本年度は最終年度であるため、主として過去のデータ取りまとめおよび公表準備を行った。 本課題で開発したHILICカラムを用いたLC-ESI-MS法による海水マトリックス中の葉酸定量法は海水中の葉酸およびその分解物p-aminobenzoly-L-glutamic acid(PAG)の同時微量定量を可能にした。さらに、本法を用いて海水中の葉酸消失速度とその要因(光、熱)について議論した結果は論文投稿の準備を行っている。本研究では海水中の葉酸の消失要因として、従来から報告されていた微生物分解、光分解に加え、化合物の熱力学的不安定さに起因する分解反応が消失速度に重要である事を示した。 本手法は海水中の低濃度(ppb-ppt)の化合物を定量可能にするとともに、PAGの構造決定にはNMR、MS/MSなど微量構造解析手法を駆使した。このことは、海洋化学において、他の主要な化合物についても質量分析が新たなアプリケーションとなることを示した。さらに、将来葉酸を標準として、葉酸とその分解物p-aminobenzoly-L-glutamic acid(PAG)の両方の定量および比較によって、将来的には生物活動を含む海水環境評価の指標として利用できると期待される。 また、葉酸の定量法開発以外に質量分析を用いた有機化合物分子構造解析の一環として、イオン化条件検討によってイソメリックイオン識別に成功し、その技術は化合物phomopsinBの構造訂正研究に応用された。さらに、含フォスファシラン化合物のエレクトロスプレーイオン化においては特異的にヨウ素付加正イオンが生成することを示し、この現象はエレクトロスプレー中の酸化反応に起因することを報告した。
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