海洋の溶存有機炭素のうち、平均滞留時間が千年前後ともいわれ、海洋の炭素貯蔵に大きな役割を担う難分解性溶存態有機化合物は、分子レベルの実態解明が進められているものの、その成因に関する直接的な情報は未だない。そこで、本研究では生物由来の多環芳香族が海水中で受ける化学変化を追跡することにより、難分解性溶存有機化合物の成因を推定することを目的とする。実験ではモデル化合物である葉酸を海水に添加し、培養を行い消失速度と生成物を質量分析法によって測定する。NMRを含む質量分析法以外の分子構造解析手法をも駆使し、海水中に生じた化合物の検出・定量法を確立する。高濃度の塩類を含み、かつ複雑雑多な化合物の混合物である海水試料から微量濃度の葉酸を定量するため、オフライン、オンラインの精製法の検討が重要な実験ステップとなる。結果から、葉酸を初めとする海水中の化合物が未知の難分解性有機物に変遷する過程において、どのような海洋化学要因が存在するのかを考察する。
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