南極アイスコア中に含まれる微生物は、氷期間氷期サイクルなどの過去の気候変動と連動して変化している可能性があり、これら微生物の多くは、南極大陸外の陸域から風により飛来してきたものと考えられる。申請者の予備研究から各時代において微生物量が大きく増減する事、特に放線菌の生物量などは氷期と間氷期で大きな差があった事から、環境条件によって微生物が飛来してくるプロセス(発生源の環境や風の強さなど)が変化していたと推測された。本研究では、ドームふじアイスコアの最終氷期初期から現在までのサンプルを用い、サンプルインターバルを密にして分析を行った。 融解させた氷試料は微生物観察用フィルター(Whatman : Anodisc等)に濾過し、DNAを染色する蛍光色素(Molecular Probes : SYBR Gold)で染色した。染色後、蛍光顕微鏡による直接観察により球状バクテリア、放線菌の細胞数を計測し、1ml辺りの細胞密度を推定した。この結果、球状のバクテリアの濃度が深度580m、2009m、2349mでそれぞれ約18000、5800、9000cells/mLと他の部分に比べ非常に多かった。これらの深度は南極外から飛来してきた鉱物粒子量が非常に多い層と一致する事から、鉱物粒子とともに飛来してきたバクテリアである可能性が考えられる。また、糸状の放線菌様のバクテリアは深度115-491m、736-810mにかけて多く、特に230m、764mにおいては、体積バイオマスが104000、79000μm3/mLと非常に高かった。これらの深度は特に鉱物粒子が多いそうでは無いため、風送微粒子と共に飛来してきた可能性は低いと考えられ、また好冷性微生物が現地で増殖していた可能性も、ドームふじ基地が非常に寒冷な環境である事から、非常に低いと考えられる。今後これら微生物の遺伝子解析に基づいた種同定を行い、部分的な増加の原因を探る予定である。
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