大気中のグリオキサール(CHOCHO)は光化学オキシダントや浮遊粒子状物質の原因となっている揮発性有機化合物(VOC)が酸化して生成する物質であり、VOCの光化学反応の活性度をよく示す可能性が近年活発に議論され、世界的にも関心が集まってきている。本課題では、CHOCHOの高度分布を導出する新たなインバージョン法を開発し、これまで日本・中国の複数地点でMAX-DOAS法を用いて地上から測定した膨大なスペクトルデータを再解析して、CHOCHOの高度分布を多地点で明らかにする。また、同時に得られるカラム濃度データで検証された衛星データを使って、緯度経度分布を明らかにする。当該年度では、作成したインバージョンアルゴリズムを、北京市・泰安市・横須賀市・つくば市・辺戸岬のスペクトルデータに適用し、CHOCHOの高度分布・カラム濃度を導出した。その際、CHOCHOの解析波長範囲を再考して436-457nmとすることで高精度化した。北京市・泰安市・横須賀市では大気境界層中のCHOCHO濃度が平均で約200pptvと高濃度であったことが分かった。つくば市と辺戸岬では60pptv程度であった。自由対流圏では40pptv以下の値を示したが、アプリオリに依存している可能性が高く、解釈には注意が必要である。衛星データを組み合わせたところ、横須賀では高濃度域は数十km以内、中国では数百kmの空間スケールで拡がっていたことが示唆された。
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