熱赤外リモートセンシングを用いて地表面の物理特性に関するパラメータを取得し、地表面熱収支のシミュレーションを行なう手法を提案した。既往研究では都市熱環境のシミュレーションを行う際に土地利用データ等を用いて地表面の物理特性を設定することが一般的であったが、土地利用データは現実の土地被覆とは一致しておらず、計算結果はパラメータの設定に依存するという問題点があった。これに対し、本研究の手法では連続した日中・夜間の表面温度分布と1次元熱収支・熱伝導モデルとを結びつけることにより、経験式ではなく物理的な計算に基づいてパラメータを取得し、シミュレーションを行なう点に特徴がある。この手法を適用し、東京の代表的な土地被覆形態についてTerra衛星ASTERデータを用いてシミュレーションを行なった。この結果、地表面熱収支の計算結果は都市キャノピーモデルを組み込んだ地表面熱収支シミュレーションの研究事例とも概ね整合することが確認され、とくに従来の1次元熱収支モデルでは難しかった市街地での蓄熱特性も的確に再現することができた。この熱収支シミュレーション結果と住宅地においてタワー観測された顕熱・潜熱フラックスのデータとを比較し、妥当性を確認した。この方法により取得された蒸発効率のパラメータは住宅地では0.11、緑地では0.30となった。計算対象とした気象条件では地表面からの蒸発散による潜熱フラックスは日中のピーク時に住宅地では60[W/m^2]、緑地では200[W/m^2]となった。
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