研究課題
トキの主要な採餌環境である水田において、生物量と種多様性を通年維持するための水田の管理方法として、景観要因としての「立地環境」(森林からの距離として2区分した里山と平場)の違いも考慮に入れ、稲作水田では「江(え)」とよばれる水田内の小土水路を、休耕田では「通年湛水」をそれぞれ実験的な通年湛水処理区として平成19年春に創出した。平成20年度の農事暦にあわせ、3月(田植え前)・6月(田植え後)・9月(稲刈り直前)・12月(冬期)に、水田・江・湛水休耕田において、定量的な生物量および種数の調査と、後述の安定同位体比分析のための生物採集を行った。平成21年度は、水田と2種類の通年湛水処理区における水生生物群集の食物網構造を、前年度採集した生物試料の炭素および窒素の安定同位体比を分析することによって評価した。その結果、水田・江・湛水休耕田の基本的な食物網は、立地環境によらず、水中の懸濁態有機物(植物プランクトンを含む)と表泥に堆積した有機物を一次生産者(物)とし、魚類(主にドジョウ)が高次の消費者であるという構造であった。年4回の調査から得られた試料に基づく分析から、食物網構造の季節的な変化を検討したところ、稲刈りに先だって排水を行う水田では、9月および12月に水生生物群集は形成されなかった。対照的に、湛水環境の江および湛水休耕田では、上記の食物網構造が年間を通じて維持されていた。また、一部の水生昆虫類(コウチュウ目、トンボ目幼虫など)は、上述の一次生産者と基点とする水田・江・湛水休耕田内の食物網に属していないと考えられた。これらの結果から、水田の水生生物群集は、水田内の食物網に属する生物と、水田外の食物網から水田内へ移動してきた生物の両方で構成されていることが示唆された。
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Ichthyological Research 56
ページ: 227-231
Proceedings of The Royal Society of London, Series B, Biological Science 278
ページ: 4207-4214