重要な海洋汚染の一つとして、タンカー事故などに代表される重油汚染が挙げられる。重油は多様な化学物質の混合物であり、その成分中では、多環芳香族炭化水素の魚類免疫毒性に関する研究報告は多い。しかしながら、重油自体の魚類に対する免疫毒性はほとんど知られていない。そこで、本課題では重油の魚類免疫系に対する影響を分子および個体レベルで調べた。 分子レベルでの影響を重油の影響を明らかにするために、マイクロアレイで、0.3g/Lの濃度で重油曝露したヒラメ腎臓の遺伝子発現量の変化を調べた。その結果、23個の遺伝子でその発現量が増加および低下していた。特に、発現抑制が認められた遺伝子の大部分は特異的・非特異的免疫遺伝子であった。また、リアルタイムPCRで重油暴露したヒラメの腎臓および脾臓におけるIgMの発現量を調べたところ、対照区に比べてそれぞれ2.7倍および6.3倍低下していた。これらの結果から、重油はヒラメの免疫を抑制することが強く示唆された。 次に、重油による免疫抑制が感染症を誘発するかどうかを調べるために、ウイルス性出血性敗血症ウイルス(VHSV)を10^2および10^3TCID/fishでヒラメに感染し、これらのグループをさらに4つの重油曝露グループ(0、0.3、0.03、0.003g/L)に分け、斃死率を経時的に観察した。その結果、ウイルスを感染せず重油を曝露した区では、0.3g/L曝露区のみで25%の斃死がみられた。一方、ウイルス感染のみのグループでは、10^2および10^3TCID/fishの感染区でそれぞれ69%および89%の斃死率が得られた。さらに、ウイルス感染魚に重油を曝露した場合には、重油の濃度に関わらず、ほとんどのグループで100%の斃死率が得られた。このことから、重油曝露はウイルス保有魚の斃死を増長することが明らかとなった。以上のことから、沿岸域でタンカー事故が起こった場合には、重油の直接的な影響のみならず、感染症という間接的な影響により魚類が斃死することが示唆された。
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