研究概要 |
本課題では,ヒラメを用いて,重油暴露が感染症発生および神経発生に与える影響を調べた.ウイルス性出血性敗血症ウイルス(VHSV)および重油暴露の感染・暴露実験を行ったところ,対照区(ウイルス感染区,重油暴露区,無処理区)では斃死が認められなかったのに対して,複合ストレス区の斃死率は50%であった.また,複合ストレス区で斃死した魚はウイルス性出血性敗血症(VHS)の症状を呈し,心臓中のウイルス力価も対照区よりも高かったことから,斃死の原因はVSHであることが示唆された.本課題で,重油暴露がウイルス保有魚に感染症を誘発することを実験的に証明することに成功した.その原因を分子レベルで明らかにするために,マイクロアレイ実験を行ったところ,複合ストレス区の魚の腎臓で,natural killer細胞がウイルス感染細胞にアポトーシスを誘導するために産生するグランザイムやパーフォリンの遺伝子発現量が有意に低下していることが明らかになった.このことから,複合ストレス区の斃死はアポトーシス誘導の抑制によってVHSVが容易に複製し,VHSが発生したことが考えられた. 一方,神経毒性については,ヒラメ胚に重油を暴露し,孵化仔魚の神経発生に対する影響を調べた.|その結果,重油暴露した仔魚の三叉神経が迷走することが明らかになった.その原因を明らかにするために,神経ガイダンスに重要なsema3aの発現パターンをin situ hybridizationで調べた.その結果,本遺伝子は,対照区では特定の領域に整然とした発現していたのに対して,重油暴露区では広範囲に無秩序に発現していた.このことから,重油暴露はsema3aの発現パターンに影響を及ぼし,三叉神経系の発生異常をもたらすことが示唆された.
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