本研究の目的は、ナノ粒子状レアメタル(希少金属)の健康影響、特に発癌に対するリスクを遺伝子レベルで評価することである。先端産業に不可欠な金属素材であるレアメタルの中でも特に化学反応性の高いナノ粒子に着目し、ナノ粒子が生体に与える健康影響、レアメタル曝露の危険性を明確にする。これまでに国際がん研究機関(IARC)で発癌リスクが分類されていない金属で、先端産業界で有用なレアメタル元素について研究を行う。具体的には、液晶導電膜で使用されているインジウム(In)、高性能磁石や光磁気メモリで使用されているジスプロチウム(Dy)、半導体で使用されているタングステン(W)やモリブデン(Mo)を被験物質として選定し、各金属について通常径粒子とナノ径粒子を使用した。今年度はサルモネラ菌TA98株、TA100株、TA1535株、TA1537株及び大腸菌WP-2uvrA株を用いたエームス試験により各被験物質の変異原性を検討した。ナノ径Dy粒子では直接法と代謝活性化法共にすべての菌株で変異コロニー数が濃度依存的に増加したのに対し、通常径粒子ではコロニー数の増加がほぼ認められなかった。Inでもナノ径粒子のみでTA1537株でコロニー数が増加し、Wもナノ径粒子のみでTA98株でコロニー数が増加した。今後、Bhas42及びBALB/3T3培養細胞株を用いた形質転換試験及び細胞毒性試験、短期発癌モデルマウスを用いたin vivo発癌性試験、レアメタル投与担癌マウスの網羅的遺伝子発現解析を行い、発癌関連遺伝子の発現変化を指標としたナノ粒子状レアメタルのin vivo評価系を確立する。
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