現在行われている大気環境観測はメソスケールでの定点観測によるものであるため、必ずしも住民の生活環境に直結した情報とは言い難い。本研究は、大気中の粒子状有害物質の多点モニタリングに適する簡易型ミクロ繊維シート捕集材(MFS)を用いたオリジナルなモニタリング法を用いて生活環境大気中の多点同時モニタリングを行い、住民の生活環境規模を対象ユニットとするような大気環境情報支援システムを構築することを目的としている。 平成20年度は、高濃度の大気粒子状物質が予測される幹線道路沿道において、MFS及びローボリウムエアサンプラーを用いた定点での同一期間・同一地点での同時モニタリングを行い、エアサンプラーによる大気中粒子状物質濃度結果とMFSのモニタリング結果との整合性について検討した。岩手県内3都市の幹線道路沿いでそれぞれのモニタリングによる経月変化を検討した結果、MFSに捕集された粒子状物質とエアサンプラーのSPM濃度は、春季から夏季にかけて同様の減少傾向は確認されたものの、秋季・冬季の経月変化は異なっており両者に高い相関関係は見られなかった。それぞれのベンゾ(a)ピレン(B(a)P)濃度は、MFSに捕集されたB(a)P含有量が降水や紫外線照射による影響のため月ごとの変化が大きく、直接気象因子の影響が少ないエアサンプラーの結果とは傾向に大きな違いが確認された。また、アンダーセンサンプラーによる粒径別採取の結果、大気中B(a)P濃度は粒径1μm以下と4μm付近に2つの高濃度域が確認され、MFSで捕集されているB(a)Pの粒径域を検証することができた。 モニタリング可能な多環芳香族炭化水素(PAHs)の定性・定量分析を行った結果、B(a)Pの他にピレンやベンゾ(a)アントラセン、ベンゾ(ghi)ペリレンなどが同定され、4環以上の複数のPAHsについてもモニタリングできることが示唆された。
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