研究概要 |
近年の劣化が著しい海草藻場は重要な生態系サービスを有するため,その機能を回復させるための保全再生事業が盛んに行われている.しかしながら回復すべき機能とサービスを生態学的観点から評価する手法は確立されていないため,事業目標やその成否などは明確な数値設定が出来ない状態にある.本研究は海域単位で海草藻場の生態系機能とサービスを定量的に算定する手法の確立を目的としている.本年度は前年度から継続の生態系機能の測定を完了して定量するとともに、生態系サービスの試算を行う。また、算出された生態系サービスの経済的価値について、地域差に関する情報収集を行い、地域別の海草藻場の経済価値を試算した。その結果、アマモの一次生産量に関連した物質循環等の生態系機能は地域差が小さく、一方で二次生産や堆積作用など、アマモの群落構造に関連した生態系機能は地域差が大きいことが明らかとなった。これらのデータから算出した生態系サービスの経済価値は地域差が小さく、どの地域も高い水準を維持した。その原因として、水質浄化など地域差の少ない生態系機能由来の生態系サービスの経済的価値が高く、漁業生産など地域差の大きい生態系機能由来のサービスの経済的価値を大きく上回っていたことが推測された。ただし、遊漁に代表されるアマモ場の文化的サービスの利用を積極的に行っている海域では、サービスにかかるコストによって経済価値が大きくなり、地域格差が生じるケースがあることが明らかとなった。
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