課題代表者はこれまで放射線や抗癌剤による倦怠感(Cancer-related Fatigue : CRF)の発症には脳内で産生されたTNF-αなど炎症性サイトカインが関与するなどのではないかとの仮説をたてて、研究を行ってきた。特に本研究課題ではマイクロダイアリシス法を用いて脳局所での炎症性サイトカインの産生・分泌動態病態を経時的に測定し、CRF発症時にいずれのサイトカインが重要であるかを検討することを主目的としているため、本年は抗癌剤投与後、いずれの時間帯に、いずれの脳部位で最も顕著に炎症性サイトカインが産生されているのかを明らかにすることに焦点を当てて実験を行った。ラットに抗がん剤投与後1、3、6、12、24時間後に延髄・視床下部を摘出し、組織中でのTNF-α、IL-1β mRNA発現レベルの経時変化を解析した結果、TNF-α、IL-1βとも抗癌剤投与後3〜6時間後に延髄・視床下部で発現増加が認められたが、特に延髄でのTNF-α発現が顕著であった。今後、行動薬理学的手法と神経化学的手法を組み合わせ、延髄で産生されたTNF-αの産生動態を経時的に測定し、TNF-αがCRF発症にどの様な役割を担っているのか詳細に検討することにしている。 また、申請者は香港中文大学Rudd教授との共同研究で、嘔吐反射のあるSuncus Murinusの脳内にダイアリシスプローブを刺入し、自由行動下で経時的にグルタミン酸遊離を測定しながら、抗癌剤を用いて嘔吐を惹起させ、グルタミン酸遊離が嘔吐反射に必要なのか否かについて検討した。その結果、嘔吐反射が生じている時間帯にグルタミン酸遊離が増加することを見出し、また制吐剤によって嘔吐反射ならびにグルタミン酸遊離増加を抑制することに成功した。このことから、脳内グルタミン酸は嘔吐反射に関与する情報伝達物質の1つであることを明らかにした。本研究課題はJournal of Pharmacological Sciencesに投稿し、受理された。
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